街を行くタトゥーの持ち主に、その一つひとつに込めた話を聞くTATTOO TOUR TOKYO。このジャーナルには、SNSの短い動画に入りきらなかった話まで、撮影した素材から書き起こして載せています。今回の相手は、札幌のバンドHIKAGEでボーカルを務めるGENさん。2025年12月、街頭で、首から背中、腕、手、お腹まで、全身のタトゥーを一つずつ見せてもらいました。
HIKAGEは2019年5月、札幌で結成された5人組です。GEN(Vo)、Wataru(Ba)、ISSEI(Dr)、YASUI(Gt)、Halki(Gt)。ライブハウスを主戦場にしてきたバンドです。
――バンドはいつからやっているんですか?
やり始めたのは中学生のとき。でも今のバンドはその頃からのバンドじゃなくて、ちゃんと今のバンドをやり出したのは23、24歳とか。もともとずっとギターをやってて、今はボーカルです。
――結成のきっかけは?
7年ぐらいギターをやってて、そのバンドを結構ガチで頑張ってたんだけど、解散しちゃって。新しいボーカルを探そうと思ったけど周りにいなくて、もう自分がやるしかねえなって。それでボーカルとして始めました。
ギタリストがマイクの前に立つ。そうして始まったバンドの曲づくりは、いまは主にギターのメンバーが担っています。GENさんの言葉では「したりしなかったり。メンバーと一緒にやったりとか」。
――HIKAGEという名前の由来は?
もともとやってたバンド名がマジで長すぎて、覚えてもらえないことが多かったから。日陰だったら誰でも覚えられるでしょって。あとはライブハウスで基本やってるから、日が当たらない場所で活動してる。日陰だなって感じで付けました。
肩甲骨のあいだから腰へ、背骨に沿って縦に走る「HIKAGE」の6文字。太い筆の払いがそのまま残ったような黒い線で、遠目には一本の背骨にも見えます。全身のなかで、GENさんが「一番気に入っていると言っても過言ではない」と言い切るタトゥーです。
――背中に入れたきっかけは?
自分は北海道出身で、3年前に上京してきたんですけど、そのときに、決意じゃないけど、自分のバンドを頑張りたいなっていうので。バンドの先輩で、タトゥーアーティストもやってるアイバンくんって人がいて、その人にロゴを考えてもらって、それを背中に入れました。
――大きく背中にしたのは?
いや、もう、バンド名背負うっしょって。縦に入ってる文字って、意外とないじゃないですか。この筆のタッチで、ちょっと背骨感っていうか。それがかっこよくて。
施術は2セッション。「めっちゃ痛かった」。値段は「10万はいってないぐらい、多分」。ロゴのデザインから彫りまで、バンドの先輩であるアイバンさんの手によるものです。
ライブでは基本、上裸になることが多くて。背中は撮られたときに、いいなってわかる。自分じゃ全く見えないから。
本人には一生見えない場所に、本人のいちばん大事な名前がある。最近は背中の空いたところが気になり始めたものの、「バンド名が目立たなくなるのが嫌だから」と、新しいものは入れずにいます。
――ファーストタトゥーはどれですか?
ツバメ。カナダで、これも19歳のときかな。日本が初めてじゃなくて、カナダでファーストタトゥーを入れました。
10代の終わり、GENさんはカナダで1年半を過ごしています。最初の半年は語学学校、その後は当時のバンドメンバーとワーキングホリデーで。現地でもバンドを続けましたが、うまくいかずに解散し、帰国して組んだのがいまのHIKAGEです。
――ツバメを入れた理由は?
昔の船乗りの、トラディショナルタトゥーの文化で、船出のときにツバメをこっちに入れて、無事に帰ってこれたら反対側にもう一羽入れる、っていうのがあるみたいで。俺はもう一羽は入ってないんですけど。
――行ったっきり、みたいな?
出たっきり。でも、それはわざとだけどね。
ツバメは、船乗りのタトゥーを代表するモチーフです。長い航海を終えるごとに1羽ずつ増やした、海で命を落としたときは魂を運んでくれる、といった言い伝えが数多く残っています。ただし決まった規則があったわけではなく、記録で裏付けられた話ではありません。いま広く知られるツバメの絵柄は、ハワイ・ホノルルの彫り師セーラー・ジェリー(ノーマン・コリンズ)が描き直して広めたもので、太い黒の輪郭に赤・黄・緑を乗せるアメリカン・トラディショナルの定番になっています。
腕に1羽だけ飛ぶGENさんのツバメは、まだ帰ってきていません。
カナダで入れたタトゥーは、ほかにもたくさんあります。菊を入れたのは、トロントのケンジントン・マーケットのスタジオ。GENさんいわく「下北みたいな場所」です。20世紀の初めに東欧系ユダヤ人の移民が自宅の前に露店を出したことから始まった市場の街で、いまは古着屋が並ぶ多文化の地区として、2006年には地区全体がカナダの国定史跡に指定されています。
ツバメと対になる位置に、最近入れたばかりのタトゥーがあります。ヒビの入った王冠です。
ファーストアルバムの『TRUE COLORS』っていうタイトルで。王冠にヒビが入ってるのは、別に俺は王冠いらないよ、みたいな。自分のありのままの姿でいいよ、っていう意味があって。
10代で入れたツバメと、最近入れた王冠。旅立ちの印の隣に、「飾らなくていい」という今の答えが並んでいます。
GENさんがバンドを始めたきっかけは、RIZEでした。RIZEは1997年、JESSEと金子ノブアキらが結成し、2000年にメジャーデビューしたロックバンドです。ボーカルのJESSEはギタリストCharの息子で、2013年からはThe BONEZでも活動しています。
そのJESSEの背中には、「天」の字を逆さにした大きなマークが入っています。「逆天マーク」。逆転する、という意味を込めたマークで、JESSEが2005年に立ち上げたレーベル、TENSAIBAKA RECORDSのマークでもあります。
GENさんが同じマークを腕に入れたのは、19歳のころ。まだJESSE本人には会ったこともありませんでした。
当時の自分は、ここから先、たぶん憧れは変わんねえなと思って入れて。
その予感は、思いがけない形で当たります。GENさんはいま、JESSEがボスを務めるJesse's Shop AND FACTORYで働きながらバンドを続けています。東京・品川区戸越にある、シルクスクリーンのプリント工場とショップ、そしてタトゥースタジオがひとつになった場所です。取材の少し前には、The BONEZとHIKAGEの対バンも実現しました。
いろいろ時を経て、繋がりました。
――肘の文字は?
まずい飯食っていい音楽やる。HIKAGEが今年(2025年)出した曲「刃」の言葉です。「刃」はSPARK!!SOUND!!SHOW!!のタナカユーキくんがフィーチャリングで入ってる曲で、もともとはスサシのタクマくんが、昔バンドをやってるときに言ってた言葉らしくて。この言葉パンチあるな、やべえなと思って、ちょっと借りていいっすかって、言葉をもらって。
――迎合すれば飯は食える、みたいな話ですよね。
結構、皮肉。
「刃」は、2025年6月に配信された「YAIBA (feat. タナカユーキ (SPARK!!SOUND!!SHOW!!))」。HIKAGEにとって初めてのフィーチャリング曲です。SPARK!!SOUND!!SHOW!!は「スサシ」の愛称で呼ばれる大阪のバンドで、タクマさんはシンセとギターを担当しています。
この一行は、最初はタトゥーではなく物販のデザインでした。筆のタッチを得意とするワノ国のカズさんが「刃」の文字とパンチラインを書き、そのつながりで、カズさんがタトゥーとしてプレゼントしてくれたものです。物販では2行だった言葉を、腕では1行に。肘のあたりを、筆文字が一息に横切ります。
なかなか、こんな言葉入れてるやついないんで。
首まわりには、いくつものタトゥーが重なっています。首の中で最初に入れたのは、背中と同じアイバンさんのもの。その隣には、札幌・すすきのの13INKのワタルさんが彫った言葉があります。意味を聞くと、返ってきたのは「誰が気にすんの? 誰も気になんない」。
いちばん大きく目を引くのは、喉元に咲くバラです。首の中では最後に入れました。
――バラはどういう意味ですか?
バラのところには、もともと「LOVE」って鏡文字で入ってて。ラブユアセルフじゃないけど、鏡を見たときに、自分を愛しましょう、って反転が直る。そういう意味合いで入れて。
――それでバラを足した?
これだけだったら寂しいなってなって。Three Tides Tattooのリュウイチくんっていう、同い年の彫り師に入れてもらいました。
人に向けては裏返って見え、鏡の前の自分にだけ正しく読める文字。そこに、同い年の彫り師がバラを添えました。
| 首のタトゥー | 彫った人 | 値段(本人の記憶) |
|---|---|---|
| 鏡文字の「LOVE」とバラ | リュウイチさん(Three Tides Tattoo) | 4〜5万円ぐらい |
| 抽象的な花 | アイバンさん | 3万3〜4千円ぐらい |
| 「誰が気にすんの?」という意味の言葉 | ワタルさん(札幌・13INK) | ― |
| マイクと筆、月桂樹 | ペプシさん(札幌・MAYFLY TATTOO SHOP) | ― |
| 首の後ろ | カナダの彫り師 | ― |
抽象的な花は、アイバンさんがトレードマークのように彫り続けているスタイルで入れてもらったもの。マイクと筆を交差させた図柄は、絵を描くのが好きで、マイクと筆をいつも手にしているから。これを彫ったペプシさんは、カナダで解散したバンドの当時のボーカルです。いまは札幌・南平岸のMAYFLY TATTOO SHOPで彫り師をしていて、友人として、GENさんの体にいくつものタトゥーを残しています。首の後ろはカナダで入れたもので、黒のインクが入りすぎて、少し盛り上がっています。
――胸のタトゥーもかっこいいですね。
これは結構前に入れたやつで、北海道のワタルさんに彫ってもらって。プロビデンスの目、ちょっとフリーメイソンっぽい。めっちゃ気に入ってるけど、一番痛かった。中心がもう痛すぎて。
胸の中央、三角形の中からこちらを見据える目。その背後に赤い光が放射状に広がり、黒い線の中でひときわ強く目を引きます。値段は「6万とかだった気がする」。
プロビデンスの目は、もとはルネサンス期のキリスト教美術に描かれた図像です。三角形は三位一体を、光に包まれた目は人間を見守る神のまなざしを表しました。1782年にアメリカの国璽の裏面に採用され、その絵柄はいまも1ドル札に印刷されています。フリーメイソンの象徴として語られることも多いものの、メイソンが定まった形で使い始めたのは1797年ごろとされ、国璽への採用より後のことです。
胸の中央は骨が近く、マシンの振動が骨に響きやすいため、痛みの強い部位とされています。部位ごとの違いは部位別のタトゥーの痛みにまとめています。
――心臓の中の数字は?
おじいちゃんの命日を入れてて。おじいちゃんの名前が三郎っていうんだけど、まずその時点で当て字を間違えてて。6月15日の2012年っていう意味で入れてるんだけど、おじいちゃんが亡くなったの、2013年らしくて。
人生で2つ目のタトゥーです。尊敬していた祖父を体に残そうと決め、父親に命日を確かめて彫りました。ところが、その父親が年を覚え違えていました。
早く殺しちゃったなっていう。バカだなっていう。
間違いごと笑って見せる腕の心臓は、全身のなかでも、いちばん個人的な一枚です。
腕には、言葉のタトゥーがいくつも並んでいます。どれも、GENさんが影響を受けてきたものの断片です。
「STAY REAL」 は、Pay money To my PainのボーカルKの言葉。GENさんにとって憧れの一人でした。Kは2012年12月30日、急性心不全のため亡くなりました。K自身も体に「STAY REAL」を刻み、その意味を「そのままで、ありのままでいてください」と語っています。2010年には、同じ名を冠した「STAY REAL TOUR」も行われました。
「Time waits for no one」 は、細田守監督のアニメ映画『時をかける少女』(2006年)から。作中、理科室の黒板に書かれた一文として何度か映ります。GENさんの言葉では、
時間は誰も待ってくれないから、だから心臓からの。
祖父の命日を刻んだ心臓と、地続きの言葉です。
「PMA」 は、Positive Mental Attitude。前向きな心の姿勢、という意味です。ハードコア・パンクでは、ワシントンD.C.のBad Brainsが1980年代初めに掲げた言葉として知られます。ボーカルのH.R.は、その考えの元が父親に勧められて読んだナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』だったと語っています。
その隣には「Don't give a fuck」の頭文字。「気にしねえよ」。
言葉のあいだは、花や植物でつながれています。雪景色の絵は、北海道の「超ド田舎」の実家のイメージです。「マジでこんな感じ、周りに何もなくて」。内側に雨が降る傘は、意味をあとから付けたもの。外ではなく内側に雨が降り、傘が「前向きな姿勢で、守ってくれる」。
――全体のテーマはあるんですか?
テーマはないけど、バランスはめっちゃ気にしてて。最初は色を入れないようにしようと思ったんだけど、肘に入れたヘビ、本当は黒で入れたかったのに、カナダで入れたときに、伝わってたのか伝わってなかったのか、気づいたら色が入ってて。最初は絶望してたけど、だったらこっちの腕もカラーにしようって。
黒一色で揃えるはずだった腕に、異国のスタジオで思いがけず色が乗る。そこからGENさんは方針を切り替え、片腕をカラーで埋め、反対の腕は黒を多めに残して全体のつり合いを取ってきました。
なんだかんだ今は気に入ってる。まだ空いてるんで、隙もある。
反対側の腕から手にかけて並ぶのは、どれも人とのつながりから生まれたタトゥーです。
イーグル は、上京して最初に働いたサンドイッチ屋の上の階で入れました。そこは彫り師のポップアップが開かれる場所で、札幌からペプシさんが来たときに「ちょっと入れてよ」と頼んだものです。
鹿 は、Jesse's Shop AND FACTORYの3階で彫っているDEEさん(@dee_tattooer)の作品。HIKAGEの曲「Before Sunrise」のジャケットに使った鹿の写真を、腕に彫ってもらいました。
日本っぽい柄 は、首のバラと同じThree Tides Tattooのリュウイチさん。「ちょっと日本っぽいのが入れたい」という一言から生まれました。
手には、フレームの中に 「HAVE HOPE」。希望を持って。同じく手に入った 「BEAUTIFUL」 は、GENさん自身の字を鏡文字にして彫ったもので、首の「LOVE」と同じく、鏡に映して初めて読めます。
だから何?みたいな。タトゥー入れてるけど気になんないよ、好きで入れてますよ、みたいな感じですね。
お腹には、アーチを描く一語。これもDEEさんの手によるものです。Jesse's Shop AND FACTORYで働き始めて迎えた誕生日に、言葉をもらい、DEEさんが誕生日プレゼントとして彫ってくれました。意味は「頂点」。お腹にアーチ型の文字を入れるのは、ずっと前から決めていたことでした。
――入れてよかったことは?
マジで覚えてもらえる。それがでかいし、タトゥーを入れてる人同士のコミュニティがあるから、仲良くなりやすい。お互いのタトゥーを見て、そういう入れ方もあるんだって思うこともあるし。昔よりタトゥーを入れてる人はいっぱいいるけど、コミュニティが狭いのは狭いので、いいなって。でも、流行ってるほうがみんなもタトゥーっていう文化に触れやすいと思うので、いいかなと思います。
――よくなかったことは?
正直ないけど、温泉に入れないところがあるとか。でも今は入れるところもいっぱいあるから、そんなに負になってることはないかな。後悔はしてないね、タトゥーを入れたことに対して。
日本の入浴施設とタトゥーの関係は、この10年で少しずつ動いています。2015年の観光庁の調査では、入れ墨のある人の入浴を断っていた施設は約56%。翌2016年、観光庁は入れ墨のある外国人旅行者への対応として、シールで覆う、時間帯を分ける、貸切風呂を案内するといった事例を業界団体に示しました。ただし受け入れるかどうかの判断は、いまも施設ごとに委ねられています。
――来年(2026年)はどんな活動をしますか?
来年は1月にツアーを回って、今もう音源を制作してて、春ごろには新しいEPを出して、全国ツアーするかなって感じなんで、ぜひ遊びに来てほしい。フェスも結構決まってるんで。来年はちょっと飛躍の年にしたいな。止まったらあかんって。勢い大事。とりあえず今はがむしゃらに頑張ってるんで、よろしくお願いします。
言葉どおり、HIKAGEは2026年4月1日、全5曲のEP『human.』を発表しました。アルバムを出したばかりで、すぐに次の音源へ。止まらないバンドのボーカルの体には、まだ空いている場所が残っています。
| 彫り師 | 彫ったタトゥー |
|---|---|
| アイバンさん(バンドの先輩) | 背中の「HIKAGE」、首 |
| ワタルさん(札幌・13INK) | 胸の目、首 |
| ペプシさん(札幌・MAYFLY) | 首のマイクと筆、イーグル |
| リュウイチさん(Three Tides Tattoo) | 首のバラ、和柄 |
| DEEさん(Jesse's Shop AND FACTORY) | 鹿、お腹の文字 |
| カナダの彫り師(トロント) | ツバメ、ヘビ、菊、首の後ろ |
逆天マークの話は、TATTOO TOUR TOKYOのリールでも見られます。





