和彫りの柄には、昔から語られてきた意味があります。たとえば龍は「天に昇り、雲を起こして雨を降らす」とされる想像上の動物で[1]、鯉は「竜門という急流を登りきった鯉は竜になる」という登竜門の故事から、立身出世のたとえとされてきました[2]。
ただし、こうした意味は決まりではなく、美術や言い伝えの中で受け継がれてきた解釈です。彫師によって考え方は違いますし、意味はあとから付けて語られることも少なくありません。絵の迫力や、彫師の作風にひかれて柄を選ぶ人もたくさんいます。
和彫りの一枚の絵は、主役になる柄(龍・鯉・唐獅子など)と、そのまわりを埋める背景(波・雲・風・岩・炎など)でできています。主役と背景の合わせ方にも、昔から好まれてきた組み合わせがあります。背景の役割は、後半の「背景の役割と、背中一面の組み立て」でくわしく説明します。
和彫りの柄と意味の早見表
和彫りでよく描かれる柄と、その意味を一覧にしました。「由来・伝わる意味」は美術・工芸や辞典に残っている意味、「和彫りでよく言われること」は和彫りやタトゥーの世界で語られることがある解釈です。どちらも決まりではありません。
| 柄 | 由来・伝わる意味 | 和彫りでよく言われること | よく合わせる花・背景 | 作品 |
|---|---|---|---|---|
| 龍(Dragon / Ryu) | 水中にすみ、天に昇って雲を起こし、雨を降らすとされる想像上の動物。中国では四瑞の一つとして尊ばれた[1] | 力強さや守り、出世などの意味を込めて選ばれることがある | 雲・波・宝珠が多い | 龍 |
| 鯉(Koi) | 黄河の竜門を登りきった鯉は竜になるという故事から、立身出世のたとえとされる[2][3] | 努力や出世と結びつけて語られることがある | 波・水しぶき・桜・牡丹が多い | 鯉 |
| 鳳凰(Phoenix / Hoo) | 古代中国で四瑞として尊ばれた霊鳥。梧桐に宿り、竹の実を食べるとされる[4] | 吉兆や再生と結びつけて語られることがある | 桐・牡丹・桜・炎・雲が多い | 鳳凰 |
| 唐獅子(Karajishi) | 獅子を絵や彫刻のために図案化したもの。獅子には悪魔を圧する力があると信じられ、魔除けとされた[5] | 魔除けや守りの意味が込められていると言われることがある | 牡丹が多い(唐獅子牡丹) | 唐獅子 |
| 虎(Tiger / Tora) | 龍と虎は天と地を代表する特別な生き物と考えられ、虎は竹林に棲むとされた[6] | 力強さや勇ましさと結びつけて語られることがある | 竹・風・岩が多い | 虎 |
| 蛇(Snake / Hebi) | 弁財天の宝冠の中にいる白蛇を宇賀神として祀る言い伝えがある[7] | 守り神や金運と結びつけて語られることもある | 般若や花と合わせる作品が見られる | 蛇 |
| 般若(Hannya) | 能面の一つ。2本の角と大きく裂けた口をもつ鬼女の面で、女性の憤怒と嫉妬を表す[8] | 魔除けと結びつけて語られることもある。表情の迫力で選ぶ人も多い | 炎・雲・蛇・桜・牡丹が多い | 般若 |
| 鬼(Oni) | 屋根の鬼瓦は、昔は魔よけのために鬼の面をかたどった[9] | 守りの意味を込めて選ばれることがあると言われる | 雲・炎・桜が多い | 鬼 |
| 能面(Noh mask / Nomen) | 能楽で使う面。翁などの老人、小面などの女、般若などの怨霊を表す面がある[10] | 面ごとの表情で印象が変わる。決まった意味は語られにくい | 花・雲が多い | 能面 |
| 武者(Musha / Samurai) | 歌川国芳の武者絵《通俗水滸伝豪傑百八人之一個》は、彫り物(刺青)のブームを起こすほどの人気だった[11] | 忠義や勇気、強さを表すと言われることがあるが、決まった意味はない | 刀・桜・波・雲が多い | 侍 |
| 芸者(Geisha) | ― | 日本の伝統文化や女性の美しさを表す題材として選ばれることがある | 桜・扇子・和傘が多い | 芸者 |
| 不動明王(Fudo Myoo) | 魔軍を退け、煩悩を断ち切り、行者を守るとされる。剣と縄を持ち、火炎に包まれた姿で表される[12] | ―(神仏の節を参照) | 炎・岩が多い | 神仏の節 |
| 観音(Kannon) | 人々が唱える声を聞き取り、慈悲をかけて救うとされる菩薩[13] | ―(神仏の節を参照) | 蓮・雲が多い | 神仏の節 |
| 風神雷神(Fujin & Raijin) | 袋から風を出す風神と、太鼓を打つ雷神。千手観音につき従う二十八部衆にも数えられる[14] | ―(神仏の節を参照) | 雲が多い | 神仏の節 |
| 弁財天(Benzaiten) | 七福神の一つで、福徳や財宝を与える神とされる。穀物の神の宇賀神と同一視された[15] | ―(神仏の節を参照) | 蛇・波が多い | 神仏の節 |
| 桜(Sakura) | 古くから和歌や絵画に取り上げられ、日本の国花とされる[16] | 咲いて散る姿から、命の儚さや潔さを重ねて選ばれることがある | 龍や鯉の背景として描かれることが多い | 桜 |
| 牡丹(Botan / Peony) | 中国原産で、花の王と呼ばれる[17] | 富貴や華やかさと結びつけて語られることがある | 唐獅子・龍・鯉が多い | 牡丹 |
| 菊(Kiku) | 中国では不老長寿の効があるとされた。日本の国花ともされる[18] | 長寿や高貴さと結びつけて語られることがある | 波・水の流れが多い | 菊 |
| 紅葉(Momiji) | 秋の季語[19] | 秋を表す題材として使われる | 鯉・流水が多い | 紅葉 |
| 波(Nami) | ― | 主役のまわりを埋める背景。単体で入れる作品もある | 龍・鯉が多い | 波 |
| 雲(Kumo) | 雲の中の竜や、竜が雲に乗って昇天するさまを描いた絵を「雲竜」という[20] | 主役のまわりを埋める背景。絵の流れや余白を整える | 龍・虎が多い | 雲 |
| 炎(Honoo) | 不動明王は火炎に包まれた姿で表される[12] | 主役のまわりを埋める背景。絵に動きを出す | 不動明王・龍・般若が多い | 炎 |
洋彫りでも描かれる柄(桜・蓮・虎・蛇など)の一般的な意味は、「タトゥーの意味一覧」や、それぞれの作品ページで説明しています。和彫りの作品だけを見たいときは、和彫りの作品一覧から探せます。
込めたい意味から選ぶ(家族・強さ・出世・魔除け・愛)
「家族への思いを込めたい」「強くありたい」のように、込めたい意味から柄を探す人のために、よく言われる柄を逆引きにしました。ここに挙げたのは、美術や辞典に残っている意味から結びつけて語られることがある、というものです。この意味でなければいけない、という決まりはありません。
| 込めたい意味 | よく言われる柄 | 根拠になっている言い伝え |
|---|---|---|
| 家族 | 決まった柄はない | 家族そのものを表すと伝わる和彫りの柄は、はっきりしません。男の子の出世や健康を願って立てる鯉のぼり[21]や、長寿の象徴とされる鶴[22]、雄と雌の一対とされる鳳凰[4]に、家族への思いを重ねて選ぶ人もいます |
| 強さ | 龍・虎・武者 | 龍と虎は天と地を代表する特別な生き物と考えられ、よく一緒に描かれてきました[6]。国芳の武者絵は、刺青のブームを起こすほど人気でした[11]。どちらも「強さ」を表すと書かれているわけではなく、ここから力強さを重ねて選ばれることがある、という和彫りでの受け取り方です |
| 出世 | 鯉・龍 | 竜門を登りきった鯉は竜になるという登竜門の故事から、立身出世のたとえとされる[2][3] |
| 魔除け | 唐獅子・鬼・不動明王 | 獅子には悪魔を圧する力があると信じられ、魔除けとされた[5]。鬼瓦は昔、魔よけのために鬼の面をかたどった[9]。不動明王は魔軍を退け、行者を守るとされる[12] |
| 愛 | 鳳凰 | 「鳳」が雄、「凰」が雌とされ、絵では雌雄一対で描かれることもある[4][23]。恋愛や夫婦の意味がはっきり伝わる和彫りの柄は多くありません |
家族への思いを込める方法は、柄だけではありません。家族と縁のある季節の花を背景に入れる、生まれ年の干支の動物を選ぶなど、彫師と話しながら自分なりの意味を込める人もいます。どの柄にどんな意味を込めたいかは、相談のときにそのまま伝えてください。
動物・霊獣の意味と合わせ方(龍・鯉・鳳凰・唐獅子・虎・蛇)
和彫りの主役になることが多い動物と霊獣です。組み合わせの詳しい説明は、後半の「よく組み合わせる柄」にまとめています。
- 龍: 水中にすみ、天に昇って雲を起こし、雨を降らすとされる想像上の動物です。中国では麟・鳳・亀とともに四瑞(めでたいしるし)として尊ばれました[1]。和彫りでは雲や波と合わせることが多く、雲と合わせた図は「雲龍」と呼ばれます
- 鯉: 登竜門の故事から、立身出世のたとえとされてきました[2]。滝を登る鯉の図は「鯉の滝登り」と呼ばれます[3]
- 鳳凰: 古代中国で尊ばれた想像上の霊鳥で、梧桐(あおぎり)に宿り、竹の実を食べると伝えられます[4]。日本でも吉祥(めでたいこと)を表す図として定着し、桐や竹、牡丹と合わせて描かれてきました[23]
- 唐獅子: 獅子(ライオン)を、絵や彫刻のために装飾化したものです。獅子には悪魔を圧する霊力があると信じられ、神社の社前に置く像などで魔除けとされました。牡丹との組み合わせは、もっとも華やかな図柄の一つとされます[5]
- 虎: 和彫りでは、竹や風、岩と合わせて描くことが多い柄です。龍と向かい合わせる「龍虎」の入れ方もあります。虎は洋彫りでもよく描かれるので、一般的な意味は虎の作品ページで説明しています
- 蛇: 和彫りでは、般若や花と合わせる作品が見られます。日本には、弁財天の宝冠の中にいる白蛇を宇賀神として祀る言い伝えがあります[7]。蛇の一般的な意味は蛇の作品ページで説明しています
この柄の作例を、掲載作品から1つずつ紹介します。
作品の画像は、tattooers.jp に掲載している彫師の作品から引用しています(2026年10月29日時点)。画像を押すと、その作品のページに移動します。
般若・鬼・能面・武者・芸者の意味
般若・鬼・その他の能面
般若は、能で使う面(能面)の一つです。2本の角と大きく裂けた口をもつ鬼女の面で、女性の憤怒と嫉妬を表し、『葵上(あおいのうえ)』や『道成寺(どうじょうじ)』などの演目で使われます[8]。能では嫉妬や恨みから鬼となった女性の面とされ、タトゥーでは魔除けと結びつけて語られることもあります。意味の捉え方には諸説あり、表情の迫力で選ぶ人も多い柄です。
鬼は、人に危害を加える想像上の存在として語られてきた一方で[24]、屋根の端に置く鬼瓦のように、昔は魔よけのために鬼の面をかたどることもありました[9]。和彫りでも、守りの意味を込めて鬼を選ぶ人がいると言われます。
能面には、般若のほかにも、翁(おきな)などの老人の面、小面(こおもて)などの女の面、怨霊を表す面など、たくさんの種類があります[10]。面ごとに表情が違うので、同じ「面」の柄でも、選ぶ面によって絵の印象は大きく変わります。
般若・鬼・蛇のように怖い印象のある柄について「縁起が悪いのでは」と心配する人もいます。ですが、ここまで見てきたように、怖い顔の鬼や獅子には、むしろ魔を払う役目が与えられてきた歴史があります。どう受け取るかは人それぞれなので、気になる場合は相談のときに彫師に聞いてみてください。
武者
和彫りで人物を大きく描く柄が広まったきっかけの一つに、江戸時代の浮世絵師・歌川国芳の武者絵があります。国芳の最初のヒット作となった《通俗水滸伝豪傑百八人之一個(つうぞくすいこでんごうけつひゃくはちにんのひとり)》のシリーズは、中国の物語『水滸伝』の豪傑たちを描いたもので、その人気ぶりは彫り物(刺青)のブームを起こすほどだったとされます[11]。江戸時代の後期には、浮世絵の発達とともに刺青が流行し、鳶(とび)や火消、職人たちが、水滸伝の豪傑や唐獅子牡丹の文様を体に入れることがあったと説明されています[5]。江戸では、自分から入れるものを「彫り物」と呼んでいました[25]。
芸者
芸者は、伝統的な和彫りよりも、和彫りの題材を新しい描き方で表すネオジャパニーズで多く見られる柄です。日本の伝統文化や女性の美しさを表す題材として選ばれることがありますが、画としての美しさで選ぶ人も多くいます。
作品の画像は、tattooers.jp に掲載している彫師の作品から引用しています(2026年10月29日時点)。画像を押すと、その作品のページに移動します。
神仏の柄の意味(不動明王・観音・風神雷神・弁財天)
和彫りでは、仏教の仏や神々も大きな題材になります。神仏は、意味を「込める」柄というより、もともと信仰の対象です。ここでは、辞典や美術の解説に残っている姿と役割を紹介します。
- 不動明王(ふどうみょうおう): 大日如来の命を受けて魔軍を退け、災いを除き、煩悩を断ち切り、行者を守るとされます。右手に剣、左手に縄を持ち、岩の上で火炎に包まれた、怒りの表情の姿で表されます[12]。和彫りで不動明王を炎と合わせて描くのは、こうした姿をもとにしていると考えられます
- 観音(かんのん): 観世音菩薩の略で、人々が唱える声を聞き取り、慈悲をかけて救うとされる菩薩です。千手観音・十一面観音など、姿の違う観音が多くあります[13]
- 風神雷神(ふうじんらいじん): 大きな袋から風を出す風神と、まわりに太鼓をめぐらせて打ち鳴らす雷神の一対です。千手観音につき従う二十八部衆にも数えられます[14]。俵屋宗達の『風神雷神図屏風』(国宝、建仁寺蔵)がよく知られています[26]
- 弁財天(べんざいてん): もとはインドの河の女神で、日本では七福神の一つとして、福徳や財宝を与える神とされました。穀物の神である宇賀神とも同一視されます[15]。宝冠の中に白い蛇がいるとされ、白蛇を宇賀神として祀る言い伝えもあります[7]。和彫りで弁財天と蛇を合わせる作品があるのも、こうした言い伝えをもとにしていると考えられます
神仏の柄は、背中一面など大きく描かれることが多く、蓮の花(蓮の作品)や雲、炎と合わせることもあります。
作品の画像は、tattooers.jp に掲載している彫師の作品から引用しています(2026年10月29日時点)。画像を押すと、その作品のページに移動します。
花の意味と季節の合わせ方(桜・牡丹・菊・紅葉)
和彫りの花は、主役の動物や人物に添える役も、花だけで主役になる役もこなします。
- 桜: 古くから和歌や絵画に取り上げられ、日本の国花とされる花です[16]。和彫りでは龍や鯉の背景や添え物として描かれることが多い花です。一般的な意味は桜の作品ページで説明しています
- 牡丹: 中国原産で、「花の王」と呼ばれます[17]。唐獅子と合わせた「唐獅子牡丹」がよく知られ、龍や鯉とも合わせます
- 菊: 中国では不老長寿の効があるとされ、日本では皇室の紋章にも使われ、国花ともされる花です[18]。波や水の流れと合わせる作品のほか、花だけで小さく入れる作品もあります
- 紅葉: 秋の季語で[19]、和彫りでは秋を表す題材として使われます。鯉や龍、流水のまわりに紅葉を散らす作品も見られます
季節の合わせ方については、一枚の絵の中で花の季節をそろえる、という考え方があります。たとえば春の桜と秋の紅葉を同じ場面に入れない、という考え方です。一方で、季節の違う花を並べて四季を描く作品もあり、流派や彫師によって考え方は違います。どの花を入れるか迷ったら、主役の柄と一緒に彫師に相談するのが確実です。
蓮は仏教と関わりの深い花で、和彫りでは神仏と合わせて描かれることがあります。蓮の一般的な意味は蓮の作品ページで説明しています。
作品の画像は、tattooers.jp に掲載している彫師の作品から引用しています(2026年10月29日時点)。画像を押すと、その作品のページに移動します。
背景(波・雲・風・岩・炎)の役割と、背中一面の組み立て
和彫りの背景は、主役のまわりの肌を埋めて、いくつもの柄を一枚の絵につなぐ役目をもっています。背景がどう流れるかで、絵全体の動きや、どこで絵を終えるか(見切り)が決まります。
- 波: 鯉や龍のまわりに描かれることが多く、水の中や水辺の場面をつくります
- 雲: 龍や鳳凰のまわりに描かれることが多い背景です。雲の中の龍、雲に乗って昇る龍を描いた図は「雲竜(雲龍)」と呼ばれます[20]
- 風: 虎と合わせて描かれることがあります。中国の古典には「雲は竜に従い、風は虎に従う」という言葉が残っています[20]
- 岩: 虎や唐獅子の足もとに描かれることがあります。不動明王も岩の上に座る姿で表されます[12]
- 炎: 不動明王や般若、龍と合わせることが多い背景です。どの柄と合わせるかは、次の「よく組み合わせる柄」で説明します。炎の作品は炎の作品ページで見られます
背中一面の組み立て
背中一面の和彫りは、おおまかに次の3つの層で組み立てられます。呼び方や区切り方は、彫師によって少しずつ違います。
| 層 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 主役 | 絵の中心になる柄 | 龍・鯉・唐獅子・鳳凰・不動明王・武者など |
| 背景 | 主役のまわりの肌を埋める柄 | 波・雲・風・岩・炎、季節の花 |
| 見切り | 絵をどこで、どんな形で終えるか | 額彫り・胸割り・七分・五分など |
背景の入れ方には、大きく分けて次の2つがあります。
- ぼかしで埋める: 背景を墨の濃淡(ぼかし)で入れて、主役のまわりの肌を埋めていく入れ方です
- 抜き彫り(ぬきぼり): 背景を入れず、主役の柄だけを彫る構図です
和彫りの用語
和彫りの相談でよく出てくる言葉を、読み方と一緒にまとめました。言葉の使い方や範囲は彫師によって違うことがあるので、相談のときには「どこからどこまでか」を絵や体で確かめるのが確実です。
- 筋彫り(すじぼり): 絵の輪郭の線を彫ること。和彫りでは、筋彫りを先に済ませ、あとからぼかしや色を入れていく進め方があります。この記事の鳳凰と観音の作例は、筋彫りの段階のものです
- ぼかし: 主に墨の濃淡をつけて、グラデーションを表す技法です。背景の端を、ぼかして終えることを指して使うこともあります
- 抜き彫り(ぬきぼり): 背景を入れずに、主役の柄だけを彫る構図の種類です
- 額彫り(がくぼり): 胸や体の正面で、彫らない部分を額縁のような形に残して見切る構図です
- 胸割り(むねわり): 胸の真ん中を縦に彫らずに残し、左右で絵を分ける見切りです
- 五分(ごぶ)・七分(しちぶ): 腕のどこまで入れるかを表す言い方です。一般に、五分は肘のあたりまで、七分は肘より先の前腕の途中まで、と説明されることが多い言葉です
- 総身彫り(そうみぼり): 背中・胸・腕・脚など、体の広い範囲をつなげて彫ることを指します
痛みと時間について
ぼかしや色入れは、同じ場所に何度も針を入れるので、線を彫るときより時間が長く感じやすいと言われます。部位による痛みの違いもあり、背中の中心(背骨の上)や、肋骨のまわりの脇腹は、痛みを強く感じやすい部位とされます。部位ごとの痛みは「タトゥーの痛み 部位別ランキング」でまとめています。
作品の画像は、tattooers.jp に掲載している彫師の作品から引用しています(2026年10月29日時点)。画像を押すと、その作品のページに移動します。
よく組み合わせる柄(雲龍・竹に虎・桐に鳳凰・唐獅子牡丹・鯉の滝登り・般若と炎・蛇)
和彫りには、昔から好まれてきた組み合わせがあります。ここに挙げるのは「守るべき決まり」ではなく、美術や工芸で長く描き継がれてきた組み合わせです。どう組み合わせるかは、彫師によって考え方が違います。
| 組み合わせ | 由来・伝わる意味 |
|---|---|
| 雲龍(龍と雲) | 雲の中の龍や、龍が雲に乗って天に昇るさまを描いた図を「雲竜」という[20]。龍は天に昇り、雲を起こして雨を降らすとされる[1] |
| 竹に虎 | 虎は竹林に棲むと考えられ、竹がそばにあれば猫のような姿でも虎に見える、と美術館で解説されている[6]。虎の作品は虎で見られる |
| 桐に鳳凰 | 鳳凰は梧桐(あおぎり)に宿り、竹の実を食べると伝えられる。「桐に鳳凰」は紋所の名前にもなっている[4]。屏風などでも、鳳凰は桐や竹、牡丹と合わせて描かれてきた[23] |
| 唐獅子牡丹 | 獅子と牡丹の組み合わせは鎌倉時代から見られ、室町時代に大いに流行したとされる[27]。能の『石橋(しゃっきょう)』では、霊獣の獅子が牡丹の花に戯れる舞がある[5] |
| 鯉の滝登り | 竜門という滝を登りきった鯉は竜になるという故事から、立身出世のたとえとされる[3] |
| 般若と炎 | 伝わる意味ははっきりしない。和彫りでは、般若に炎・雲・蛇・桜・牡丹などを合わせる作品が見られる |
| 蛇 | 弁財天と白蛇(宇賀神)の言い伝えから、弁財天と合わせることがある[7]。和彫りでは、般若や花と合わせる作品も見られる |
龍虎(龍と虎)の入れ方
龍と虎は、天と地を代表する特別な生き物と考えられ、昔から一緒に描かれてきました[6]。和彫りでも「龍虎」はよく選ばれる組み合わせです。一枚の絵の中で龍と虎を向かい合わせるほか、背中と胸、左右の腕のように、体の離れた場所に龍と虎を分けて入れ、体全体で向かい合わせる入れ方もあります。
なお、鯉の向き(上り鯉・下り鯉)で意味が変わるという話もよく聞かれますが、はっきりした根拠がある話ではなく、彫師によって考え方が違います。気になる場合は、お願いする彫師の考えを聞いてみてください。
作品の画像は、tattooers.jp に掲載している彫師の作品から引用しています(2026年10月29日時点)。画像を押すと、その作品のページに移動します。
和彫りを彫師に相談するとき
和彫りは、柄を決めるより先に、彫師を決めるのがおすすめです。同じ龍でも、顔や鱗、背景の雲や波の描き方には彫師ごとの画風がはっきり出ます。まずは作品を見比べて、好きな作風の彫師を探してみてください。作品の見比べ方や、相談の前に確かめたいことは「彫り師の選び方」でまとめています。
- 主役だけ伝えて、背景と見切りは任せる頼み方もある: 和彫りでは、「龍を入れたい」「唐獅子牡丹にしたい」のように主役だけを伝えて、背景の入れ方や見切りの形は彫師に任せる頼み方もよくあります。デザインは、一緒に考えてくれる彫師が多いというのが、編集部がこれまで見てきた印象です
- 大きく入れたいなら、最初に全体の構想を伝える: 背中一面など大きな作品にしたい場合は、最初の相談で全体の構想を伝えておきましょう。先に入れた小さな柄をあとから背中一面の絵に組み込むのは難しく、配置が限られてしまいます
- 何回にも分けて通う: 大きな和彫りは、筋彫り、ぼかし、色入れと何回にも分けて仕上げていくのが一般的です。背中一面になると、仕上がるまで長い期間がかかることもあります。回数や期間の見通しは、最初に彫師に聞いておくと安心です
- 料金の決まり方は最初に確かめる: 背中一面のような大きな作品は、1回ごとの時間制や回数ごとの料金で進めることが多いとされ、総額が最初に決まらないこともあります。料金の決まり方は、最初に彫師に確かめましょう。決まり方は、サイズ制・時間制・見積もり・1回いくら、の4通りがおもなものです。時間制の場合、掲載彫師が公開している1時間あたりの最低料金は、真ん中の値で1万2,500円です(2026年10月29日時点、編集部集計)。くわしくは「タトゥーの値段相場」の決まり方の節で、片腕や背中一面の試算は「片腕・背中一面のタトゥーの値段は?」で説明しています
- 手彫りと機械彫り: 和彫りには、機械を使わずに手で針を突いて彫る「手彫り」を続けている彫師もいます。仕上がりの感じや、時間・料金の決まり方は彫師によって違うので、気になる場合は相談のときに聞いてみてください
- ほかの彫師の作品をそのまま頼まない: 龍や鯉などの定番の柄は、昔から多くの絵師や彫師に描き継がれてきたものです。ただし、特定の彫師が描いた構図をそのまま別の彫師に頼むのはご法度です。好きな作品は「参考」として見せて、自分に合う絵を提案してもらいましょう
相談で送る内容(参考画像・部位・大きさ・予算など)のまとめ方は、「タトゥーの予約DM例文」で、コピーして使える例文つきで説明しています。tattooers.jp の予約相談は18歳以上の方が対象で、送るときに生年月日の入力が必要です。
和彫りの作品から彫師を探すなら、和彫りの作品一覧から作品を見て、気になった作品の彫師のページに進めます。地域から探すこともできます。
よくある質問
Q. 自分に入っている柄の意味は、どう調べればいいですか?
まずは、この記事の早見表で、主役の柄と背景の柄を探してみてください。ただし、和彫りの意味は決まりではなく、彫った彫師がどんな考えで絵を組んだかによっても変わります。入れてもらった彫師に聞くのがいちばん確実です。
Q. 小さめで、腕や足に入れやすい和柄はありますか?
桜・牡丹・菊・蓮などの花を一輪だけ入れたり、鯉や唐獅子を単体で入れたりする作品があります。どんな大きさにできるかは、柄の細かさや彫師の考えで変わります。実際の作品は、桜・牡丹・菊・蓮・鯉の作品ページで見られます。小さく入れる場合の値段の目安は「ワンポイントタトゥーの値段」で説明しています。初めてなら、半袖の服でも隠せる場所から始めるのがおすすめです。部位の選び方は、はじめてのタトゥー完全ガイドの「初めての人が選びやすい部位」を参考にしてください。
Q. 和彫りで、縁起が悪いとされる柄はありますか?
般若や鬼、蛇のように怖い印象のある柄を「縁起が悪い」と心配する人もいます。ですが、鬼瓦のように、鬼の顔には魔よけの役目が与えられてきた歴史もあり、受け取り方は人それぞれです。くわしくは「般若・鬼・能面・武者・芸者の意味」で説明しています。気になる場合は、相談のときに彫師に聞いてみてください。
Q. 片腕(七分)だけでも、背景は入れますか?
片腕だけの作品でも、主役のまわりに波や雲などの背景を入れることがあります。主役の大きさと背景の量の釣り合いは、彫師がその人の腕の太さや長さに合わせて決めることが多いので、まずは任せて提案を聞いてみるのがおすすめです。背景を減らしすぎると、主役だけが浮いて見え、絵がまとまりにくくなることもあります。
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参考文献
本文で使った資料は次のとおりです。各リンクは外部サイトに移動します。
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』、平凡社『改訂新版 世界大百科事典』). 「竜」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』『日本大百科全書(ニッポニカ)』、平凡社『百科事典マイペディア』). 「登竜門」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』『精選版 日本国語大辞典』). 「鯉の滝登り」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』). 「鳳凰」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(平凡社『改訂新版 世界大百科事典』〔唐獅子の項、執筆: 高田衛〕、小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』). 「獅子」. 確認日 2026年10月29日.
- 京都国立博物館 (2022). 新春特集展示 寅づくし─干支を愛でる─(2022年1月2日〜2月13日). 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』『精選版 日本国語大辞典』). 「宇賀神」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』『日本大百科全書(ニッポニカ)』). 「般若」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『精選版 日本国語大辞典』). 「鬼瓦」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『精選版 日本国語大辞典』). 「能面」. 確認日 2026年10月29日.
- 太田記念美術館 (2016). 国芳ヒーローズ~水滸伝豪傑勢揃(2016年9月3日〜10月30日). 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』『精選版 日本国語大辞典』). 「不動明王」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『精選版 日本国語大辞典』). 「観音」. 確認日 2026年10月29日.
- JAANUS (Japanese Architecture and Art Net Users System). Fūjin Raijin 風神雷神. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』『精選版 日本国語大辞典』). 「弁才天」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『精選版 日本国語大辞典』). 「桜」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』). 「牡丹」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『精選版 日本国語大辞典』). 「菊」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』). 「紅葉」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』、平凡社『普及版 字通』). 「雲竜」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(平凡社『改訂新版 世界大百科事典』、小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』). 「鯉幟」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』『精選版 日本国語大辞典』). 「鶴」. 確認日 2026年10月29日.
- 東京富士美術館.「鳳凰図屏風」作品解説(ジャパンサーチ掲載). 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(平凡社『改訂新版 世界大百科事典』). 「鬼」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『精選版 日本国語大辞典』). 「入れ墨」. 確認日 2026年10月29日.
- コトバンク(小学館『デジタル大辞泉』). 「風神雷神図」. 確認日 2026年10月29日.
- 文化遺産オンライン(文化庁).「獅子牡丹蒔絵鏡箱」解説(東京国立博物館蔵). 確認日 2026年10月29日.
※ 柄の意味は、美術・工芸や辞典に残る解釈と、和彫りやタトゥーの世界で語られている解釈をまとめたもので、決まった意味を示すものではありません。和彫りでの扱い方や用語の使い方は、彫師によって違います。
